調剤薬局で働いているんだけど、急いでいるから、いつももらっている薬だからと説明を聞いてくれない患者さんがいて困っている……。
薬の説明は薬剤師の義務なので、患者さんから拒否されると困ってしまいますよね。
そんなときの対処法をまとめました。
薬剤師が患者さんに薬の説明はいらないと言われた時の対処法
調剤薬局で投薬を始めようとして「急いでいるし、説明はいりません」と言われると、どう対応するか迷いますね。
忙しい薬局では時々遭遇する、悩ましい問題だと思います。
しかし服薬指導は薬剤師法にも義務として定められており、患者から説明はいらないと言われたとしても省略する事は認められません。
この記事で、スムーズな投薬とコミュニケーションを学びましょう。
1分だけでもいいからとお願いする
急いでいて説明を拒否する患者には
1分で済みますので……
とお願いする方法があります。
どれくらい時間がかかるかの見通しが立たないと、人は更にイライラするからです。
時間の目安を伝えることで、患者も「それくらいなら……」と応じてくれる場合もありますよ。
その場合「説明する決まりだから」とこちらの都合を押し付けるのでなく
いつも処方しているお薬なのでご存知かとは思いますが、万が一の間違いがあるといけないので。
お急ぎのところ恐縮ですが、あなたの治療のために必要だからです。
という姿勢で対応するのがポイントです。
定期処方で急いでいる患者も、薬の規格・用法・用量に間違いないかはしっかりチェックしましょう。
初めての薬が処方されている場合は、この「1分だけでいいから」の方法が特に有効です。
「説明が必要な事は分かっているけれど、急いでいるの!」というのが患者の本音だからです。
頂いた時間を有効に使い、ポイントを絞って手早く説明しましょう。
現場での説明がどうしても無理な場合
どうしてもお伝えしたいことがあるので、後ほどお電話させていただけますか?
とお願いしてみるのも手です。
その場合は、相手の連絡先を必ず確認しましょう。
安心して電話に出て頂くために、こちらの電話番号も伝えておくと良いですね。
患者さんに対面する前の準備も重要
対面する前の事前準備は念入りにしましょう。
準備が不十分な状態で呼び、窓口でもたついてしまうと、十分な準備をしてスムーズに進んだ場合と同じ時間だったとしても患者さんの不満はケタ違いに大きくなります。
これを防ぐために、監査や投薬準備の地点で下記の準備をしておくと有効です。
- 絶対確認することを頭の中でリストアップする
- ある程度決まっているやり取りを予め想定しておく
- 必要な情報は薬歴で事前にチェックする
薬局全体の待ち時間短縮のためにも、この3点は常に意識できると良いでしょう。
薬歴の確認に時間がかかる場合は、確認しやすい薬歴を書くようスタッフ全体で注意したいところ。
個人では指摘しづらい所なので、気になる点があれば、全体ミーティングが持てないか薬局長に相談してみましょう。
薬についての説明(服薬指導)をする際の流れ
毎日こなす服薬指導。もう一度基本の流れを確認しましょう。
調剤する前に一度確認をする薬局もありますが、今回は「受付→入力・調剤→監査→投薬」の流れで行う薬局を例にします。
患者さんへの声掛け
患者さんの名前を呼び、投薬台に来ていただきます。足の悪い方や体調不良の方には薬剤師が座席に行って説明する事も。
顔が分かる場合は、顔を見てお呼びできると患者側も良い印象を持ちやすいです。
混雑している中でも聞こえるよう、お腹に力を入れてはっきりした声でお呼びしましょう。
最近は名札を見せて
薬剤師の〇〇です。
と自己紹介をしてから説明を始める薬局も増えています。
症状の聞き取り
まずは症状を聞き取ります。出ている薬が症状に合っているかを確認する為です。
お薬手帳の内容の確認も症状の聞き取りに含まれます。
オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンをうまく使い、スムーズに症状を聞きとりたいものです。
初回来局時は患者情報シートの内容も確認し、アレルギー歴や副作用歴は必ずチェックします。
継続の方も経過やDrからの説明内容を確認し、副作用発現の有無や薬が正しく飲めているかを聞き取りましょう。
- オープンクエスチョン…「今日はどんな症状でおかかりですか?」のような、答え方に決まりの無い自由な質問方法
- クローズドクエスチョン…「今日は発熱でおかかりですか?」のような、「はい・いいえ」で相手が答える質問方法
医薬品についての説明
処方された医薬品について説明を行います。
薬の用法・用量・薬効・副作用を説明し、聞き取った内容に問題があれば改善するための指導を行います。
薬の保管方法の説明や、併用薬との飲み合わせも指導が必要です。
質問事項の確認
一通りの説明を終えたあと
何か気になる点はございませんか?
と患者に確認します。
患者が分からないところや不安に思っているところを拾い上げる必要があるからです。
ここで「実は……」と患者が話してくれることがあります。薬剤師として出来る限り力になりましょう。
副作用が出た時の対処や、重要事項もきちんと確認しましょう。
クロージング
クロージングとは服薬指導を終了し、患者をお見送りすることです。
ここがおろそかだと「対応が雑だ」と感じる患者もいます。
丁寧な言葉とお辞儀でお見送りし、服薬指導を締めくくりましょう。
薬についての説明(服薬指導)のポイント
服薬指導で起こりやすい困り事の解決ポイントをお伝えします。
伝える内容が多い場合は複数回に分けて伝えるのも良い
伝える内容が多い場合は内容に優先順位を付け、次回来局時に継続的にフォローしましょう。
特に初回来局時は記入してもらった患者情報シートの内容(既往歴・アレルギー・併用薬など)の確認をするため、時間がかかりますね。
病院の待ち時間が長かったため、既に時間が無い方もいるでしょう。
一度に指導できない場合、薬情やパンフレットも活用し情報提供が不十分にならないよう注意が必要です。
次回伝えることがある場合は薬歴に必ず記載し、指導漏れがないようにしてくださいね。
気難しい患者さんには手帳への書き込みなどで指導
薬剤師の話を全く聞いてくれなかったり、気難しくてコミュニケーションを取ることが難しい患者もいらっしゃいます。
しかし、コミュニケーションが取れないからと言って、説明なく薬を出すことは薬剤師法違反となります。
「口頭で説明しなければならない」という記載は無いため、直接話をして説明するのが難しい場合、お薬手帳への書き込みや薬の指導せん(リーフレット)を上手く活用して指導に繋げましょう。
「この人は話を聞かない人だから」と諦めず、ニーズにあった働きかけを続けるうちに信頼関係が築けることもあります。
「自分が何をしてあげられるか」をよく考え、指導にあたりたいですね。
患者さんからされた質問への回答がわからない場合はきちんと調べてから回答する
患者から受けた質問の回答が分からない場合はきちんと調べてから回答しましょう。
思いもかけない質問を受けた場合、ベテラン薬剤師であってもすぐに回答できないことはよくあります。
間違った事を伝えてしまうと、大きな問題につながります。
急ぎの質問でない場合は
申し訳ないのですが、確認して次回お伝えする形でもよろしいでしょうか?
と了解を取り、次回へ持ち越しましょう。
早めに返事が欲しいと言われた場合は回答が分かり次第、電話して伝えるのがよいでしょう。
服薬指導のスキルを高めるためには患者さんとのコミュニケーションが重要
良い服薬指導が出来るかは、患者といかにコミュニケーションを取るかにかかっています。
一方的に説明するだけでなく、服薬状況などの情報を得ることでより的確な指導が可能になるからです。
良いコミュニケーションを取るためには「相手が今どんな気持ちか考えてから話す」ことが大切です。
急いでいる人にのんびり説明したり、不安そうな人に上から目線で説明してしまう薬剤師は相手の気持ちや状況を汲み取れておらず、患者の事を思いやれていません。
患者の反応や表情をよく観察したそのうえで感情を理解し、求められる対応を取れるよう日々つとめてくださいね。
子供や高齢者に薬の説明(服薬指導)をする際のポイント
子どもや高齢者は、注意すべきポイントが何点かあります。
これらを意識し、よりデキる薬剤師を目指しましょう。
子供に薬の説明(服薬指導)をする場合
子供に薬の説明をする場合、大きく分けて2つのパターンがあります。
大人(基本的には保護者)に服薬指導をするパターンと、子供本人に指導するパターンです。
保護者に服薬指導をするポイント
飲ませるときの色々なパターンを想定して指導する
実際に子供に薬を飲ませるときは保護者が予期せぬことがよく起こります。
(例:苦くて子どもが飲まない、保育園で昼の薬は対応不可と言われた、まだ離乳食で1日2回しか食べないetc)
生活習慣、今までの困りごとなどを丁寧に聞き取り、必要な情報を提供しましょう。
服薬指導、保護者の様子にも気を配る
子どもの様子が気になって話に集中できない、子どもの体調不良で早く帰りたいなど、様々なパターンがあります。
また、病気に対して非常に心配していたり、副作用を過剰に心配する保護者もいます。
ケースに応じて臨機応変に対応しましょう。
子ども本人に服薬指導をするポイント
小学校中学年ころから、子ども本人が薬を取りに来るパターンがあります。
継続している薬の場合が多いですが、臨時の薬などは良く分かっていない事もあります。必要なら保護者や医師に確認しましょう。
伝達漏れを防ぐため、必要な内容はお薬手帳や薬袋など保護者の目につく場所に記載すると安心です。薬歴にも子供本人に渡したことを記載しておくとよいでしょう。
高齢者に薬の説明(服薬指導)をする場合
高齢者に服薬指導をする場合、耳が遠かったり認知力が低下していてただ口頭で説明しただけでは伝わらないことがあります。
薬が正しく使われないとQOLの低下に繋がるため、力を尽くしましょう。
視力が落ちている場合の対応ポイント
視力が落ちている高齢者に服薬指導する際のポイントです。
薬袋の文字が小さい場合は大きく・太く書く
太いマーカーなどを使い、大きく記載しましょう。
薬歴に記載し、投薬準備の地点で対応するとスムーズです。
色の見え方が違うことに注意する
高齢者は水晶体の劣化により全体的に黄色っぽく見えるようになります。
私たちが茶色いサングラスをかけて物を見るのと似た感じと言われています。
目立たせようと黄色いラインマーカーを使っても、あまり意味がない事があります。
耳が遠い場合の対応ポイント
耳が遠くなっている高齢者に服薬指導する際のポイントです。
やや低めの声を意識する
やや低めの声を意識し、ゆっくりハッキリ話しましょう。加齢に伴って、高音部から聞き取りづらくなるからです。人によっては50代から聴力の低下を感じる人もいます。
重要事項は薬袋に記載する
耳が遠いと、聞き流すことが当たり前になっている人もいます。
言った言わないの話にならないためにも、重要事項を薬袋に記載する事は有効です。
認知力・記憶力が低下している場合の対応ポイント
おそらく一番大変なのが認知力・記憶力が低下している高齢者への服薬指導かと思います。
誤った薬の使い方は命に関わるため、注意して服薬指導を行いましょう。
重要事項は薬袋に記載し、一包化や剤形変更も考慮する
記憶力や認知力が落ちている方にも重要事項は文字で伝えましょう。
家族にも服薬指導を行う必要があったり、一包化が必要な事もあります。
病院までは家族も来ているパターンもあるので、家族に説明したい場合は聞いてみると良いでしょう。
併用薬や慢性疾患が多いため、薬の作用や副作用により注意する
併用薬が多く腎機能や肝機能も低下しやすいので、薬の効きすぎや副作用が出ていないか気を配りましょう。
お薬手帳が正しく機能していない事もあるため、併用薬のチェックは手帳だけでなく口頭でもしっかり行ってくださいね。
薬剤師からの薬の説明は要らないと言われた時の対処法まとめ
- 薬剤師の説明は要らないと言われたら「1分で終わります」等と短時間で済むことを伝える。
- 服薬指導は口頭説明でないといけない決まりはないので、どうしても時間がない場合や気難しい患者さんには電話や手帳への書き込みで指導を行うのもおすすめ。
- 子供や高齢者に薬の説明をする際はただ口頭で説明しただけでは伝わらないことも多いので注意。
薬の説明はいらないと言われても、薬が正しく使われるための最低限の説明は必要です。
「時間の見通しを伝えて、最低限の時間をいただく」「準備を念入りにして、スムーズに説明を済ませる」ことでトラブルを回避できます。
患者さんとの信頼関係の構築も重要なポイントです。
服薬指導はコミュニケーション力が必要不可欠。
患者さんのニーズを的確に読み取り求められる服薬指導を続けることで、薬剤師の必要性も感じて頂けるようになっていくことでしょう。
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