調剤報酬とは
診療報酬は保険診療の際に医療行為などに対して支払われる報酬です。
診療報酬には医科報酬・歯科報酬・調剤報酬がありますが今回は調剤報酬についてのお話です。
調剤報酬は官報に告示された点数で、審査支払機関に1点10円として請求します。
例外として1点10円にならないものに公害医療がありますが、調剤報酬には、調剤技術料、薬学管理料、薬剤料、特定保険医療材料料の4種類があります。
以下に調剤報酬の具体例を示したいと思います。
(参考:https://www.nicho.co.jp/column/18666/
https://pharmacist.m3.com/lp/dispensing_fee より抜粋・意訳)
調剤技術料
調剤技術料は、薬局が持つ機能や薬局が提供する様々なサービスに対する報酬です。
次の3種類があります。
調剤基本料:薬局の設備や機器の使用に対する報酬
薬剤調整料:薬を調剤することに対する報酬
各種加算料:薬を割線に沿って割ったり、飲みやすくなるように錠剤をつぶして粉にしたり、複数の薬をひとまとめ(一包化)にしたり、医師の指示、または薬剤師の判断により特別な調製が必要と判断して調剤した場合に対する報酬
薬学管理料
薬学的管理とは、医薬品を適正かつ安全に使用してもらうために必要な指導、説明、薬剤情報提供、重複投与の防止や相互作用の発見など、薬剤師が薬学的知見に基づき行われる業務です。
薬学管理料は、薬剤師が薬学的管理を行うことに対する報酬です。
薬の管理とは処方された薬の情報を薬剤服用歴(薬歴)に記録したり、併用薬の情報や、アレルギー歴などを記録することも含みます。
薬学的管理料には調剤管理料と服薬管理指導料があります。
調剤管理料は処方された薬剤が適切か、患者やその家族から服薬状況の情報を集め、必要な薬学的分析を行ったうえで、薬歴への記録や管理を行った際に算定する点数です。
服薬管理指導料は使用している薬の管理(しっかり飲めているか、副作用はないかなど)に対する点数です。
薬剤料
薬剤料は薬の値段です。
薬そのものの料金で、国によって薬価基準で定められており、同じ成分の先発医薬品同士・後発医薬品同士であっても値段が異なる場合があります。
特定保険医療材料料
特定保険医療材料料とは、指定された医療材料に対する報酬です。
糖尿病の患者さんが使うインスリン自己注射用注射器や在宅医療で使われる輸液セットなどが対象になります。
調剤報酬額の計算方法
お薬をもらうために処方せんを持って薬局へ行き、薬剤師から説明を受けて薬をもらい支払うお会計。
保険医療で使える薬はすべて国で決められています(=薬局では主に調剤報酬点数が使われます)。
例えば、処方せん1枚を薬局が受け付けたら、薬局が患者に医療を提供する代わりに患者は薬局にいくら払うこと、A錠という薬は日本全国1錠いくらなどというように決められています。
自費の薬はこの限りではありません。
薬局が患者に提供する医療の代金は、後述しますが薬局により異なるのでその旨を店内に貼り出します。
また、調剤報酬は2年ごとに見直され、今までは薬局がやっていて点数がつかなかった行為も、患者に必要と判断されれば、評価され新たに点数がつくこともあります。
一方、薬剤師以外にも出来ることなど、定めた点数を減らされることもよくあります。
どのような報酬を薬局に支払っているのか、薬局によって値段が違うなどと内容がよくわからないまま薬局でお会計を済ませている方もいるかもしれません。
薬局ならどこの薬局も取っている点数と、一定条件で点数が発生する場合があります。
お会計の内訳は、領収書と一緒に発行される調剤明細書に記載されています。
調剤明細書は、どのような調剤行為をしたので調剤報酬点数表に当てはめてこの点数の金額を患者に請求しました、という内容が詳しく書かれています。
調剤明細書を見たことない人はご自身の調剤明細書を見て確認してみましょう。
薬局で支払う会計は、厚生労働省が定める調剤報酬点数という、1点10円を基準にしています。
薬剤師の技術に対する評価とお薬は15円未満を1点、15円を超える10円またはその単数を増すごとに1点つきます。
そのため一剤が高い薬もあり、安い薬を使っても薬が多くなるとそれだけお会計は高くなります。
調剤報酬の点数には、多くの項目があり、薬局・薬剤師が提供する医療サービスの届け出と普段の取り組みによって点数が取れる、取れないが決まります。
(https://pharmacist.m3.com/lp/dispensing_fee より抜粋・意訳)
公的医療保険と患者の自己負担
国民皆保険のため国民は全員何らかの公的医療保険に加入しています。
そのため、医療費の一部は患者が自己負担し、残りは保険者が支払います。
自己負担は、以下の通りです。
- 75歳以上の者は1割(現役並み所得者は3割、その他の一定所得以上のものは2割)
- 70から74歳までの者は2割(現役並み所得者は3割)
- 70歳未満の者は3割。6歳未満の者は2割
(2022年10月1日実施)
(資料:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken01/index.html)
1点=10円の点数制
調剤報酬は点数制になっており、1点10円と定められています。
調剤報酬は、先ほど紹介した調剤技術料と薬学管理料と薬剤料と医療材料費をすべて合わせた点数で算出します。
例として下記の表のように、調剤基本料は薬局ごとに定められており、薬局の立地や処方箋の受付回数などで点数が異なります。
基本料の種類 | 調剤基本料1 | 調剤基本料2 | 調剤基本料3 イ/ロ/ハ | 特別調剤基本料 |
点数 | 42点 | 26点 | 21/16/32点 | 7点 |
薬局のタイプ | 街中の個人薬局 | 病院前の薬局 | チェーン薬局 | 病院と同じ敷地内の薬局 |
(2023年2月9日時点)
この表はあくまでも基本的な例なので、具体的には調剤をしてもらう薬局に聞いてみると良いでしょう。
なぜ、薬局の立地や規模の違いで点数に差があるのでしょうか?
2016年4月の調剤報酬改定から、国から求められている機能や役割に応じて薬局に調剤基本料という評価がつけられるようになりました。
近くに病院やクリニックがない薬局は、地域に根差して地域住民の方の健康をサポートすることが求められています。
また、そのような薬局にはかかりつけ薬局としての機能も求められ、患者が使用している全ての薬の情報をまとめて継続的に把握し、他の医療者と連携を取りながら在宅医療を実施するなど、場合によっては24時間対応も求めています。
かかりつけ薬局がこの求めに応じるにはそれなりのコストもかかってしまう一方、国が地域に根差して住民の健康をサポートする薬局を望んでいるため、そのような薬局を評価して高い点数を付けました。
これに対して病院やクリニックの前にある薬局や、病院の敷地内にある薬局は近くの病院やクリニックから処方せんが集まり、多くの患者さんに利用してもらえると考えられます。
医院等の前にある薬局は処方せんの集まりだけでも経営が可能であろうという予想で点数が下がっています。
端数処理は五捨五入
調剤報酬のひとつである薬剤料を計算するときに端数が生じることがあり、そのとき「五捨五入」という特殊な計算ルールを行います。
四捨五入は、4以下を切り捨てて5以上を繰り上げる計算ルールですが、薬剤料では五捨五入を用いて5は切り捨てて、5を超えた場合繰り上げます。
端数の処理が生じる理由については、薬価(国が定めた薬の値段)は円表示になっています。
そして、薬価は1円未満の銭の単位まで定めてあります(〇円〇銭のように)。
薬剤料の算出は円を点数に変換し、そこからまた円に戻す特殊な方法を用います。
例として架空のA錠、B錠、C散、D顆粒を例に計算をしてみましょう。
薬 | 価格 |
A錠 | 31.0円/1錠 |
B錠 | 10.6円/1錠 |
C散 | 0.9円/1g |
D顆粒 | 10.4円/1g |
例1)A錠3錠、B錠6錠を1日に服用し、3日分出ている時の薬剤料は、
A錠 31.0円×3錠=93円、B錠 10.6円×6錠=63.6円
合計=156.6円→15.66点→(五捨五入のため)16点
薬剤料=16点×3日=48点
例2)C散1.0g、D顆粒0.2gを1日に服用し、2日分出ている時の薬剤料は、
C散 0.9円×1g=0.9円、D顆粒10.4円×0.2g=2.08円
合計=2.98円=15円未満のため1点
薬剤料=1点×2日分=2点
例3)A錠3錠、B錠6錠、C散4.0g、D顆粒6.2gを1日に服用し56日分出ている時の薬剤料は、
A錠 31.0円×3錠=93円、B錠 10.6円×6錠=63.6円、C散 0.9円×40.g=3.6円、D顆粒10.4円×6.2g=64.48円
合計=224.68円→22.468点→(五捨五入のため)22点
薬剤料=22点×56日=1232点
例4)205.0円は20.5点で20点、205.1円は20.51点で21点。
2018年の調剤報酬額の改定について
2018年の調剤報酬改定では、
- かかりつけ薬剤師と地域医療に貢献しているかかりつけ薬局を評価する
- 薬局における対人業務の評価
- 後発医薬品のさらなる使用促進
- いわゆる門前薬局の評価を見直し
などが決定されました。
薬局における対人業務の評価とは、薬や物(対物)ではなく患者とのコミュニケーションを充実させることです。
もちろん対物業務も重要ですが、例として処方せんに書かれた薬のシートの取り揃えは少し訓練を受ければ薬剤師以外でも可能です。
この行為は厚生労働省通知で言う「判断を加える余地に乏しい機械的な作業であること(薬剤師の現実の監視下で行われることが前提)」に当たると思われます。
患者に薬が渡る前にチェックし、最終的な責任は薬剤師が持つことで事務等が処方箋に書かれた薬を取りそろえることを認めています。
最初に1、2社の企業が成分を見つけ出し、その数社に特許がある薬を先発医薬品と呼びます。
先発医薬品には特許があり、他社はお金を払わないとその成分を使えません。
成分を見つけ出すためにかかった費用を回収しなくてはならないため、先発医薬品の値段は高めに設定されます。
先発医薬品の特許が切れて安くなり、一般的に使われるようになった同成分の薬を後発医薬品と呼ぶと考えて良いでしょう。
後発医薬品は成分を見つけ出す時間や手間がかからないため、値段が安く済みます。
評価される調剤報酬は増やされたり、維持されたり、新しく項目を創られたりします。
反対に、評価を見直しするとは調剤報酬を下げるという意味です。
かかりつけ薬剤師・地域医療に貢献している薬局の点数が向上
かかりつけ薬剤師と地域医療に貢献している(かかりつけ)薬局を評価し点数が向上しています。
具体的な例として、
<地域支援体制加算>
地域支援体制加算は、従来の基準調剤加算を廃止して新設されました。
かかりつけ薬剤師が機能を発揮し、地域医療に貢献する保険薬局について夜間休日対応などを評価するものとして新設されました。
地域支援体制加算を得るには重複投薬・相互作用等防止加算を規定回数以上算定するなどの条件があります。
2023年2月現在は地域支援体制加算は条件によって4種類に分けられています。
<地域支援体制加算>
地域支援体制加算は、従来の基準調剤加算を廃止して新設されました。
かかりつけ薬剤師が機能を発揮し、地域医療に貢献する保険薬局について夜間休日対応などを評価するものとして新設されました。
地域支援体制加算を得るには重複投薬・相互作用等防止加算を規定回数以上算定するなどの条件があります。
2023年2月現在は地域支援体制加算は条件によって4種類に分けられています。
<かかりつけ薬剤師指導料>
患者さんが調剤をしてもらいたい薬剤師を決定し、かかりつけ薬剤師にします。
かかりつけ薬剤師がその患者さんのお薬の服用状況や相互作用、副作用、併用薬などをチェックし、医師と連携を取り服薬指導を行うことでかかりつけ薬剤師指導料を算定します。
かかりつけ薬剤師指導料は通常の服薬管理指導料に比べて高い点数ですが、かかりつけ薬剤師となるには書面で患者さんと契約を行うなど要求される条件も多いです。
後発医薬品の使用を促進した場合の点数が向上
後発医薬品の使用促進の場合の具体例は、
<後発医薬品調剤体制加算>
後発医薬品調剤体制加算は、後発医薬品による調剤を積極的に行うことで加算される点数です。
2018年改定で後発医薬品調剤体制加算は細分化されました。
2016年の改定では、後発医薬品の数量シェアの目標値が2020年度末までの間のなるべく早い時期に80%を目指すとされ後発医薬品の割合65%以上と75%で加算がついていました。
2018年改定では後発医薬品の割合の最低値を75%以上とし、新たに80%以上、85%以上と細分化しました。
従来は後発医薬品の割合が75%以上で22点を算定できましたが、2018年改定では22点を得るためには80%以上の後発医薬品で調剤する必要があります。
さらに、特定の条件がなく後発医薬品の使用が著しく低い薬局では点数を減らす「後発医薬品減算」の考え方が導入されました。
85%以上で26点として他の割合よりも点数を上げ、特別な理由なく後発医薬品を使用しない場合には点数を減算するという、医療費抑制のため国は後発医薬品の使用を促したい考えです。
2023年2月現在は割合80%、85%、90%と引き上げられ、点数はそれぞれ21点、28点、30点になっています。
薬局における対人業務の充実
薬局における対人業務の評価を充実させる改定内容を紹介します。
<薬剤服用歴管理指導料>(現 服薬管理指導料)
薬剤服用歴管理指導料は、患者ごとに作成された薬歴にもとづき、薬剤の名称、用法、用量、効能、効果、副作用及び相互作用に関する主な情報を文書などで患者さんに提供し、薬剤の服用に関して基本的説明をしたときに算定できます。
2018年の改定で3点ずつ加点された点数は以下の項目です。
- 1)原則6カ月以内にお薬手帳を持参し、再度処方せん持参の患者に実施:41点(2023年2月現在3か月以内になり45点)
- 1)以外の患者に実施:53点(2023年2月現在59点)
- 特別養護老人ホームの入所者を訪問して実施:41点(2023年2月現在45点)
いずれも処方せん受付1回につき算定できます。
2018年改定ではお薬手帳の活用が少ない薬局に対しては13点を適用することになりました。
40-50点台に比べるとかなり低くその薬局は調剤報酬が減ることになります。
また、お薬手帳を使って患者の薬の相互作用をしっかりチェックするように、他の医療機関で同じような薬が出されないように患者を守ろうという安全対策でもあります。
お薬手帳の活用は、安全と医療費の抑制を同時に実施できます。
門前薬局の評価の見直し
門前薬局から地域に根差した薬局へと評価を見直す内容を紹介します。
厚生労働省は薬局に地域で暮らす患者本位の医薬分業を求め、薬剤師に薬物療法の安全性や有効性の確認と、医療費の適正化を求めています。
すなわち、様々な病院やクリニックからの処方せんを扱い(面分業)、処方せん薬だけではなく市販の医薬品を販売し、処方せんを持ってこない人にも健康に気を使うことを目的として健康相談に応じる薬局です。
しかしながら以前の薬局、特に大手調剤チェーン薬局は、面分業ではなく、医院の前に薬局をつくり、特定の医院からの処方せんをメインに扱う門前型の薬局が多くなっていました。
これは厚生労働省や国民が望む薬局の姿ではありません。
よって2018年改定では調剤基本料を見直すことで、大手調剤チェーン薬局や特定の病院の処方せんばかり多く受けつける門前薬局の調剤報酬を減らす一方で、地域に根差した薬局の調剤報酬を増やすようにしました。
ただし、大手チェーン薬局であっても地域住民のために頑張っている薬局はたくさんあります。
(参考資料 厚生労働省 平成30年度診療報酬改定の概要調剤:
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000197985.pdf)
<調剤基本料の見直し>
従来→2018年
調剤基本料1:41点(調剤基本料2、3以外の薬局)→41点
調剤基本料2:25点(特定の処方せんが多い薬局)→25点
調剤基本料3:20点(大型グループ薬局)→20点。さらに特定の処方箋が多い場合は15点に減点。
※()内は調剤基本料1-3のどれに該当するか、大まかな目安です。
調剤基本料1と2は、41点と25点であり、16点の差があります。
門前薬局は特定の医療機関からの処方せんが集中しやすくなるため、特定の医療機関からの処方せんが集中すると点数が下がるシステムです。
ただし、厚生労働省が定める医療資源の少ない地域でしっかり薬局としての責務を果たしている場合には高い点数を取ることを認め、調剤基本料1を算定できます。
また不動産取引等の特別な関係がある特定の病院からの処方せん割合が一定数を超えると調剤基本料1-3のどれも適応されず、特別調剤基本料を10点で算定することになります。
まとめ
今回は調剤報酬についての記事でした。
調剤報酬は2年に一度改訂されるため、点数自体は聞かれた際に調べてすぐ分かれば覚えなくても大丈夫ですが、どのような理由で報酬として認められているのか、報酬となる条件を知ることが重要になると思います。
大規模な改定が行われ、ある算定項目が他の算定項目に吸収され新設されることもあります。
また、2023年2月現在は後発医薬品の流通が滞っており特例措置がなされています。
調剤報酬は薬局・薬剤師の収入でもあり、調剤報酬は薬剤師や薬局に最低限求めることを表しています。
近年は医療費の圧迫が問題となり、調剤報酬は税金で賄われている部分も多く、日ごろから調剤報酬を意識した業務を求められます。
コメント