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医療費の増加には日本特有の理由が!?医療費問題について徹底解説

目次

医療費が増える要因は?

日本の医療費は増え続けており、令和2年度の国民医療費は年間で42兆円を超えています。
増大する医療費の影響で、国民皆保険制度も崩壊の危機にあります。

そもそもなぜ医療費は増加しているのでしょうか。
この記事では、医療費が増える要因や医療費問題をわかりやすく解説していきます。

人口増加

人口が増えれば、その分病気になる人も増加するので医療費も増えます。
しかし日本の総人口は2011年以降、11年連続で減少しています。

2011年から2022年までの総人口の推移を見てみましょう。

引用元:総務省統計局ホームページ「人口推計」(2023年2月20日公表)

2021年は64万4千人が減少し、減少幅は過去最大となりました。
人口の大幅な減少に対して、医療費は増加している状態です。

労働人口が減って高齢者が増えていることが原因だと推測されます。

高齢化

前述の通り、社会の高齢化は医療費が増える大きな原因のひとつです。

高齢になると病気にかかりやすくなり、治りにくくなります。
運動不足や食生活など日頃の生活習慣に問題があり、長い間治療が必要な生活習慣病の患者が多いためです。

下記のグラフは令和2年度の国民医療費の内訳を表しています。

参照:厚生労働省 「令和2(2020)年度 国民医療費の概況」

医療費を使用した人を年齢別にみると、一番多いのは「65歳以上」で全体の61.5%を占めています。
65歳以上の高齢者が、国民全体の医療費の約6割を使っていることがわかります。

医学の進歩

医学の進歩は国民の健康を大きく支えますが、その分費用も必要になります。
新しく登場する医療機器や医薬品は高価なものが多いからです。

内視鏡検査機器やMRI装置など新しい医療機器により誰にでも高度な医療が受けられるようになりましたが、その分かかるお金も増えています。

疾病構造や対象の変化

疾病構造や医療の対象の変化も医療費が増える原因です。

治療の対象となる病気は、今と昔では大きく違います。
昔は感染症や伝染病などの急性疾患が医療の主な対象でした。
急性疾患は突然発症してあまり長くは続かないので、長期にわたり医療費がかかることは基本的にありません。

しかし、抗生物質などの新薬や医療技術の進歩により急性疾患は減少していき、最近の医療の対象は主にガンや生活習慣病などの慢性的な病気です。

高血圧、糖尿病、慢性腎不全、慢性肺疾患などの生活習慣病は、食事や運動などの生活習慣が原因で引き起こされる病気です。
ゆっくり進行し、高価な薬や医療機器(慢性腎不全の場合は人工透析など)が長期にわたって使われます。
生活習慣病は完治が難しく多額の治療費を必要とする場合も多いため、医療費増大の要因の一つです。

医療費が増える日本特有の要因は?

医療費の増加については世界共通の要因だけでなく、日本特有の要因も考えられます。

他国と比べて入院(在院)日数が長い

引用元:厚生労働省「医療提供体制の国際比較」

日本は世界各国に比べて病床数が多く入院(在院)日数が長いです。

上のグラフは、OECD(経済協力開発機構)の調査結果による平均入院日数の国際比較のグラフです。
一番左にある赤い棒が日本のデータです。
国ごとに入院の定義や文化的な背景が違うので単純に比較できませんが、他の国と比べて日本は大幅に入院日数が長いことがわかります。

日本の入院日数が長い原因は主に2つあります。

まず、治療に必要な入院日数を過ぎても入院を続ける患者がいたことです。
自宅で療養する環境が整えられないため、入院日数が長引くケースも珍しくありませんでした。
そこで、短い入院日数でも安心して自宅に帰れる体制づくりが進められました。
大病院で入院による治療を受けた後は中小病院で退院後のケアができるよう、医療機関で機能を分担し、退院後も地域や家庭で受けられる医療を充実させました。

しかし病院から早期の退院をすすめられ、患者本人や家族の負担が増えている現状もあります。
欧米と違い、住居がせまく核家族化が進んでいる日本の社会環境を考慮する必要があるでしょう。

日本の入院日数が長い2つ目の原因は診療報酬によるものです。
以前は入院も外来も「出来高払い制」で、治療するほど病院はお金が稼げるので、入院期間が必要以上に長くなりやすかったのです。
今は「包括支払い制度」が取り入れられ、看護師の配置の充実や質の高いケアの提供により入院日数を少なくする方が、病院にとって有利になりました。

他国と比べて病床数が多い

引用元:厚生労働省「医療提供体制の国際比較」

日本は全病床数も他の国に比べて多いです。

上のグラフは、人口1,000人あたりの全病床数の国際比較のグラフです。
先程のグラフと同じく、一番左の赤い棒が日本のデータです。

2位の韓国と共に、他の国と比べて目立って病床数が多いことがわかります。
これは1961年に国民皆保険制度が実施されるにあたって、保険料負担に見合った医療を提供するため、全国に病院を増やしたことが原因です。

1985年の医療法改正で病床数の規制をしてもなお、人口あたりの病床数は世界で1番多いです。

医療材料価格が高い

日本は欧米に比べて医療材料価格が高めに設定されています。

日本アメリカイギリスドイツフランス
PTCAカテーテル12.7万円7.7万円8.5万円5.8万円3.9万円
冠動脈ステント25.8万円20.4万円16.6万円8.5万円9.1万円
ペースメーカー103万円98.7万円101万円76.4万円71.5万円
参照:厚生労働省「主要な特定保険医療材料における日本の保険償還価格と外国価格との比較」

日本と欧米の医療材料価格の差は以前よりは縮まったものの、冠動脈ステントで1.9倍、PTCAカテーテルで1.8倍の差があります。

薬剤の使用量が多いかつ薬剤価格が高い

日本の医療費は薬剤費の割合が欧米に比べて多い傾向にあります。
日本の薬剤の使用量が多く、かつ薬の価格が高いからです。

参照:厚生労働省「OECD Health Data を用いた 外来薬剤費の国際比較」

日本の病院は薬を出しすぎると言われてきました。
現在は病院が薬を処方することで得られる薬価差による利益がなくなったため、薬を出せば出すほど儲かる時代は終わりました。

ではなぜ医療費に占める薬剤費の割合は多いままなのでしょうか。
それは保険で決められている薬価が高いからです。
ジェネリック医薬品の使用が進み以前より薬剤価格は抑えられてもなお、他の国と比べて日本は医療費に占める薬剤費の割合が多いのが現状です。

検査が多い

病院や診療所に行くと、いろいろな検査が実施されます。
病院によっては頻回に血液検査を行ったり、必ずしも必要ではない検査が行われることも珍しくありませんでした。
前述の通り医療費における薬代の部分は少しずつ改善されていますが、検査は依然として多いままです。

これを受けて、数年前から保険医療で可能な検査の種類や回数に対して、厚生労働省の制限が設けられました。

受診回数が多い

日本では、医療機関を受診する回数が他の国に比べて多いことがわかっています。

2018年の国民1人あたりの1年間の受診回数は日本は上から2番目の多さです。

引用元:厚生労働省「医療提供体制の国際比較」

気になる症状があるとき、誰もが自由に選んだ病院を受診できるのは国民皆保険制度のメリットの一つです。
そのため、ただの風邪やかすり傷でも病院に行く人が多いのです。
特に高齢者や小児は窓口負担が少ないため、軽い症状でも医療機関を受診する人が多い傾向にあります。

病院や診療所を訪れる患者が多いほど、病院は忙しくなり医療費も増えます。

国民皆保険への影響について

ここまでは、医療費が増える要因を解説しました。
医療費の増大により、国民皆保険へどのような影響があるのか考えていきましょう。

医療費と保険料のバランスが崩れつつある

現在の日本では、国民皆保険制度による医療費と保険料のバランスが崩れつつあります。
社会の高齢化や医学の進歩がすすみ、増え続ける医療費を支えるには限界に達しているからです。

医療の「支出」は医療にかかる費用で、医療の「収入」は国民が納めている保険料と患者の窓口負担のことです。
「支出」である国民全体の医療費は毎年1兆円以上増え続けているのに対して、「収入」にあたる国民が納める保険料は減っています。
このままでは収支のバランスがとれなくなり、私たちの健康を支えてきた国民皆保険制度が崩壊しかねません。

保険料収入が減少している理由

なぜ医療保険における保険料の収入は減少し、保険料の確保が難しくなっているのでしょうか。原因は主に2つ考えられます。
景気の悪化と労働人口の減少です。

国民皆保険制度が実現した1961年頃は景気が良く、日本の経済は安定していました。
労働人口も多かったため保険料は十分確保できていました。
しかし2008年のリーマンショック以降、日本の経済は不安定です。

さらに近年は少子高齢化で労働人口が減っているため、保険料収入も減少しています。

医療費が抑制される?

医療費の増加による国民皆保険制度への影響を考慮し、国は医療費を削減するための対策を取っています。

  • そもそも病気になる人を減らすため、特定健診・保健指導を推進
  • 軽い症状であれば市販薬の使用により自分自身で健康管理する「セルフケア」を推進するため、市販薬を購入したお金が一部返ってくる「セルフメディケーション税制」の実施
  • ジェネリック医薬品の使用促進
  • 入院日数を減らすため、医療機関で機能を分担し、退院後も地域や家庭で受けられる医療の充実

実際、1990年以降は医療費の伸び方が少なくなりました。
しかし医療費を無理に抑制するのは大きな危険を伴う場合もあります。

医療の高度化により医療機器や薬剤の費用は圧縮できないため、医師や看護師の人件費にしわ寄せがきて、過剰労働につながるなどの問題が起こっていることも事実です。
医療費の抑制は医療提供の体制を揺るがす事態につながりかねないので、慎重にすすめる必要があります。

一部の医療が保険適用されなくなる?

一部の医療が保険適用されなくなれば医療費の増加が防げるのではないか?という声もあります。

保険診療と保険の効かない診療(保険外診療)を組み合わせることを「混合診療」と呼びますが、現在の日本では、厚生労働省により混合診療は原則として禁止されています。
理由は主に2つです。

日本で混合診療が禁止されている理由

  • 本来は国民皆保険制度の考え通り、国民全員が保険診療で一定の自己負担額を支払い平等な医療を受けられるはずが、混合診療が承認されれば経済力のある人とない人の間で受けられる医療に差が生まれ、不平等になるため
  • 海外では承認されていても日本の医療制度ではまだ安全性・有効性が確認されていない医療を保険診療と併せて治療することで、科学根拠のない医療の実施が広まってしまうおそれがあるため

厚生労働省は混合診療を無制限に導入した場合の問題点をふまえ、混合診療には一定のルールの設定が不可欠であるとしています。

高齢者の入院費が財政を圧迫

最後に、高齢者の入院費の財政への影響について解説します。

令和2(2020)年度の厚生労働省のデータによると、医療費の内訳でいちばん多いのは入院費(約38.0%)です。

参照:厚生労働省「令和2(2020)年度 国民医療費の概況」

前述の通り65歳以上の高齢者が国民医療費の約6割を使っています。
以上2点から、高齢者の入院費が国の財政を圧迫していると推測できます。

下のグラフは、日本の医療費と死亡場所の推移を表したグラフです。

参照:厚生労働省「令和2(2020)年度 国民医療費の概況」「人口動態統計年報 主要統計表」

1965年には6割以上の人が自宅で亡くなり、病院で亡くなる人は3割以下でした。
1976年に逆転した後、2000年以降は病院死が7~8割に増えています。
病院で亡くなる人が増えるほど医療費も右肩上がりに増えているため、病院死の増加と医療費の増加は関係していると考えられます。

病院で亡くなる人が増えたきっかけは、1973年に実施された老人医療費の無償化です。
かつての日本は今のような核家族は少なく多世代の同居が一般的で、高齢者の世話は家族の仕事でした。
しかし老人医療費が無償化されてからは外来も入院も高齢者の受診率が上昇しています。
窓口負担が少なくなったことで、外来診療は「憩いの場」になり、入院治療は「介護施設化」したのです。
外来診療の待合室にはいつも同じ顔ぶれが集まり、病院に来ていない日は「どこか具合でも悪いのか」と心配する笑い話があるほどです。

介護施設より病院に入院する方が手続きが簡単で費用負担が軽いため、死亡場所は「自宅」から「医療機関」へ変わっていきました。

さらに、高齢者の入院の増加は心身の二次的な障害も引き起こしました。
一日中病院のベッドで寝たきりでは筋力が衰え、歩行が困難になります。
「床ずれ」や「認知症」などを発症しがちになり、医療費が無償のため投薬や検査もたくさん行われました。

1985年に病床数規制が始まり高齢者の自己負担も少しずつ上がっていったため、外来受診率と入院率は徐々に低下していきましたが、日本は少子高齢化の影響で今後も高齢化が進み、労働人口は確実に減少します。
長期入院よりも、自宅でのケアや地域密着型のサービスを選択した方が自己負担が少なくなるような制度の再構築が必要になるでしょう。

まとめ

これから来る多死時代を乗り切るには、高齢者を介護施設や自宅でケアすることが必須です。
本人の意思を尊重した上で、なるべく病院ではなく介護施設や自宅で最期を迎えられるような体制づくりが、日本の医療問題の解決につながるでしょう。

医療事業者としては、適切な医療の提供が重要です。
医療費が増大し財政を圧迫している中、過剰な医療を行うことは、結果として医療保険の制度を揺るがしかねません。
薬剤師ができることといえば、処方された薬のすべてが本当に必要かどうかの見直しは、患者のためだけでなく医療費の削減にもつながります。

皆が安心して医療を受けられる制度を維持するために、国民が「負担を分け合いながらでも支えていきたい」と思うような、信頼できる医療の提供が大切です。

参考:手軽に医療保険やがん保険、死亡保険を資料請求|オリックス生命

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この記事を書いた人

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