予防医療とは
ここ最近では、病気を治療するのではなく、そもそも病気にならないように予防する予防医療(予防医学)に取り組むことが注目されています。
病気になったら治すのではなく未然に病気にならないことを目標にしているので、健康寿命を延ばす効果も期待されています。
このページでは予防医療はどのようなものかを解説しています。
予防医療は三段階
疾病は進行段階に応じて、疾病前段階、疾病段階前期、疾病段階後期に分けることができます。
疾病の進行段階の呼び方は何種類かあります。
その段階に対応した対策は三段階あり、一次予防、二次予防、三次予防と呼ばれます。
具体的にどのようなものかを見ていきましょう。
一次予防
予防医学で最も重要なのが一次予防と言われます。
乳幼児期からの食生活、生活習慣、運動、成人後の飲酒・喫煙に対する対応も含まれます。
一次予防は、疾病や事故の防止(罹患率低下)と健康増進を目的にした予防段階です。
その中には特定の疾病の発現を阻止する特異的一次予防と、不特定の疾患に対した予防を行う一般的一次予防があります。
健康増進の例として
- 健康教育
- 栄養指導
- 生活指導
- 健康相談
などがあります。
また、特異的予防として予防接種・発がん物質除去などの対策などがあります。
具体的な例としては、新型コロナワクチン予防接種、感染症患者の入院措置(感染症の広がりを抑えるため)、作業状況の改善などがあります。一次予防は疾病前段階に対応しています。
二次予防
二次予防は早期発見と早期治療による健康障害の進展の防止(有病率・死亡率低下、生存期間の延長)を目的とした、疾病段階前期に対応した予防です。
早期発見・早期治療には、
- 健康診断
- スクリーニング検査
具体的には、
- 集団検診
- 人間ドック
- 糖尿病患者に対する栄養指導
などがあります。
三次予防
三次予防は適切に治療することで、機能障害や能力の低下を予防し、日常生活動作(ADL)やQOLの向上を目的にした予防段階です。
機能障害防止には、
- 後遺症防止
- 再発防止
- 適切な治療(悪化防止として)
などがあります。
また、リハビリテーションには、
- 機能回復訓練
- 職業訓練
具体的には、
- 職場復帰後の配置考慮
- 脳梗塞患者のリハビリテーション
- 心筋梗塞既往者へのアスピリン投与
- うつ病患者の社会復帰支援
などがあります。
予防医療が必要な理由
病気の治療方法も、医療の発展とともに手段が昔より格段に増えています。
そのような中、なぜ予防医療が必要とされるのでしょうか。
現在は医療技術や薬も発達し、平均寿命(0歳の平均余命の事)は男女ともに安定して80歳を超えています。
平均寿命を見ると高いし、病院や検診は怖いから病気になってから行けばいいと思っている方も多いのではないでしょうか?
なぜ予防医療が必要なのでしょうか?
(数値参考 令和3年簡易生命意表 厚生省 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/dl/life18-15.pdf)
超高齢社会における役割
日本は世界に前例のない速さで高齢化が進み、世界最高水準の高齢化率(65歳以上の人口割合)となり、どの国もこれまで経験したことのない超高齢社会を迎えています。
健康寿命が長ければ長いほど、社会保障費を減らせる可能性があります。
今後も医療費等の伸びが大きく減る傾向がなく財政を圧迫すれば医療介護制度の危機もあります。
そのためにも、予防医療は重要な役割を果たすと考えられています。
慢性疾患対策
日本人の死因は令和3年平均寿命簡易表によると悪性新生物(がん)、心疾患、脳血管疾患が上位に位置しています。
これらの疾患は予防することが可能で死に至らずに済む可能性が指摘されています。
がんや心臓・脳血管疾患は年々増加傾向にあり、日々の生活習慣への注意が必要です。
特に食生活や運動は重要です。
食生活の乱れに気を付け、日々適度な運動を心がけることでこれらの疾患を予防できる可能性があります。
また、定期検診で早期発見・早期治療することも重要です。
平均寿命と健康寿命
先ほど少し平均寿命と健康寿命の話が出てきました。
平均寿命は0歳の時の残りの余命、健康寿命は自立した生活を送れる期間を言います。
現在平均寿命と健康寿命には10年程度の差があり、寝たきりであったり、介護や補助を必要とするなど、日常生活が自立できずに制限のある期間が10年程度あるということです。
この差を縮めることは非常に重要で、医療費を抑制する可能性があり、本人や家族も制限の少ない生活を送ることができると考えられます。
平均寿命と健康寿命の差を縮めるためにも予防医療は大変重要です。
(参考 大正製薬 平均寿命と健康寿命 https://www.taisho.co.jp/locomo/ba/sp/q1.html)
予防医療は健康長寿社会の実現に重要な役割を持つ
現在の医療は日に日に発達し、2050年ごろには治せない病気はほとんど無くなっているのではないかとも言われているようです。
しかしながら、日本の医療費等は税金で賄われており、それも公債(国の借金)が発行されています。
2018年に23.0兆円だった医療費等における公的負担は、2050年には54.6兆円程度まで増加する見込みのようです。
そのような状況の中で健康寿命を延ばし、社会保障も継続するには予防医療の必要性が欠かせません。
(参考数値は三菱総合研究所より https://www.mri.co.jp/knowledge/mreview/202110.html)
予防医療とテクノロジーの関係
予防医学に応用できるテクノロジーはたくさんあります。
一次予防にAIやIoT、VR・ARなどの新しい技術を使うことで、医療従事者による関与や介入効率を上げることが可能になるでしょう。
日本と同様に高齢化が進んでいるイギリスでは、デジタル技術を駆使した予防医療の先駆けとなる事例が登場しており、5,000人程度の2型糖尿病になりやすい患者を対象に、運動の強度を測る末端や、健康相談のできるアプリなどを活用した大規模な介入実験が行われたそうです。
この介入実験で一人一人にあう食事や運動、健康相談が可能となり、結果として糖尿病の発症や重症化の予防を果たしているようです。
(参考資料 三菱総合研究所より https://www.mri.co.jp/knowledge/mreview/2021102.html)
予防医療が社会に与える影響
三菱総合研究所の記事では、予防医療が一般的に実施された場合、社会にどのような影響を与えるか考察しています。
この記事では、8つの領域(糖尿病、ニコチン依存症、認知症、うつ病、高血圧、運動不足、肥満、筋力低下による骨折)に焦点を絞って一次予防を考えています。
その上で、2030年までに普及可能とされる一次予防医療技術が社会に普及した場合、生活習慣病をはじめとする疾病がどれくらい減るのか、その結果として医療介護費がどの程度減るのかを算出しています。
医療費よりも介護費の削減に大きな効果が予想されるようで、寿命自体は大きく延びず、健康な期間(健康寿命)が延びたと書かれています。
ここから病気にかかっている期間が短縮され、結果として医療費も抑制されると予測しています。
一方で介護費については、介護が必要になる高齢者の数が減ることで介護費の抑制効果が認められています。
高齢者のQOL改善によって、介護が必要な高齢者を約72万人減らす効果も期待でき、自立して生活できる高齢者が増え、さらに家族の介護負担も減る結果が予測されています。
(数値参考は三菱総合研究所より https://www.mri.co.jp/knowledge/mreview/202110.html)
まとめ
- 予防医療は健康寿命が延び、医療介護費が抑制できるのではないかと予想される
- 社会保障費、特に医療費等が増える中、一次予防に重きを置いた予防医療は大変重要
- 予防できる病気については日々、生活習慣を意識して生活する事が重要
コメント