そもそも社会保障制度とは?
まず、社会保障制度とはどのようなものなのか、具体的に答えられる人は意外と少ないのではないでしょうか。
現在の日本の社会保障は、日本国憲法第25条で生存権が規定され国民の権利となっています。
世界の社会保障はイギリスのエリザベス救貧法が近代福祉制度の始まりの一つと言われています。
これは囲い込み運動で仕事を奪われた農民のための生活保護でした。
憲法では生存権をドイツのワイマール憲法が初めて明文化し、その後イギリスで作成されたベバリッジ報告が具体的な社会保障の内容を示し「ゆりかごから墓場まで」と集約して表現をしています。
社会保障制度は、国民の安心や生活の安定を支える安全網(セーフティーネット)です。
下記の5つから成っており、国民に安全や安心を提供するためのものです、
- 社会保険
- 社会福祉
- 公的扶助
- 保健医療
- 公衆衛生
これらの仕組みは生活を生涯にわたって支えてゆくものです。
具体的に社会保障の内容を見てみましょう。
社会保険(医療・介護・年金)
生活をしていると、死亡、年を取って今までのように働けなくなる、事故などで障害を負ってしまう、仕事を失ってしまうなど生活を困難にする色々な事故(保険事故)に遭遇する場合があります。
その場合に一定の給付を国民に行うとともに、生活の安定を図ることを目的とした強制加入の保険制度です。
- 医療保険…病気やけがをした場合に誰もが医療にかかることができるようにする制度
- 年金制度…歳を取ったり・障害・死亡等に伴い働けなくなった時の収入を補填し、高齢者、障害者及び遺族の生活を所得面から保障する制度
- 介護保険…加齢に伴い介護が必要になった者を社会全体で支える制度
社会福祉
障害を抱えている方、父のみ母のみで子育てをしている家庭など、社会生活をする上で様々なハンディキャップを負っている国民が、そのハンディキャップを少しでも埋められるように、安心して社会生活が送れるよう公的な支援を行う制度です。
- 社会福祉…高齢者や障害を持った人が社会生活を営むことができるよう、在宅サービス、施設サービスを提供する制度
- 児童福祉…子供たちが健全に健康に育つように子育てを支援する制度
公的扶助(こうてきふじょ)
仕事がない、または体調の理由で仕事が出来ないなど、生活費を稼ぐ手段がなく生活が出来ないという方に対して、生活費を稼ぐ手段が無い間は国が最低限の生活を保障します。
その支援の間に仕事などを探して、生活費を手に入れる努力をしてもらうという制度です。
- 生活保護制度…健康で文化的な最低限度の生活を保障しその自立を助長する制度
保健医療・公衆衛生
国民が健康に生活できるように予防・衛生のための制度です。
- 医療サービス…医師・歯科医師・薬剤師・看護師、またはその他の医療従事者や病院などが国民に提供する制度
- 保健事業…病気の予防や健康づくりなどを行う
- 母子保健…母となる女性の健康を保ち、さらに健康になってもらいながら、心と体が健康な子供の出生と子育てを増進するための制度
- 公衆衛生…食品や医薬品の安全性を確保する制度
これらの分類については昭和25年と昭和37年の「社会保障制度審議会」(厚生労働大臣の諮問に応じて社会保障に関する重要事項を調査審議すること)の勧告に沿った分類に基づいています。
社会保障費はどのくらい増えているのか
社会保障はセーフティーネットであり、生活面で重要なことを解説しました。
では、実際に社会保障費がどう増えているのかを見ていきましょう。
歳入と歳出
税の収入・支出は4月から翌年3月までの期間(年度)で計算し、この1年間の収入を 「歳入」、支出を「歳出」といいます。
歳入と歳出は本来同じ額でなければいけません。
これは財政の大原則で、1年間に国に入って来た税金は国民のために使われなくてはならず、均衡財政と言います。
国債(公債)発行は歳入の足りない部分を埋め合わせた借金にあたるものであり、本来は歳入の項目には国債が入ってはいけないものです。
歳入に国債が入ると、歳出にも国債が記載されます。
社会保障費と国の借金
歳出に関してはどちらのグラフも同じ項目ですが、それぞれが上がっています。
特に大きな上がり方をしているのは国債費と社会保障費です。
社会保障費は1990年度に比べて2022年度には24.7兆円上がっています。
歳入は1990年度に比べて2022年度には10兆円のプラスになっていますが、公債金(国債と地方債の総称)も31.3兆円必要となり、借金が約7倍に増えていることがわかり、税収などの収入では収まらないほど支出が伸びているのです。
社会保障費の現状
国の歳出のうち、税収(収入)でまかなわれているのは5割程度で、4割強は国債(借金)でまかなわれています。
そのような状況の中で、社会保障の財源には保険料のほか、多額の「公費」が使われています。
社会保障のための「公費」は、国の歳入の大きな部分を占めています。
前述の通り、国の財政は歳出=歳入が基本で、本来は収入の中で全てをやりくりするものであり、公債は出してはいけないものです。
しかし、現状の社会保障に必要なお金を求めると公債を出さなければ間に合わない状態です。
今後はバランスを考え、お金を必要とし過ぎない社会保障制度の必要性とともに、将来の人たちが負担をしなくてはならないいわゆる「負担の先送り」をしないためにも、給付と負担のバランスについて引き続きみんなで考えてゆくことが必要です。
社会保障費の給付について
1980年 | 2000 | 2020 | 2022 | |
A:国内総生産(GDP)(兆円) | 248.4 | 537.6 | 535.5 | 564.6 |
B:給付費総額(兆円) | 24.9 | 78.4 | 132.2 | 131.1 |
(内訳)年金 | 10.3 | 40.5 | 55.6 | 58.3 |
医療 | 10.8 | 26.6 | 42.7 | 40.8 |
福祉その他 | 3.6 | 11.3 | 33.8 | 31.5 |
B/A(%) | 10.0 | 14.6 | 24.7 | 23.2 |
社会保障給付費は年々増加し、2022年(予算ベース)では、131.1兆円(対GDP比23.2%)でした。
高齢化率は総人口に占める65歳以上の人口の割合です。2022年の日本の高齢化率は29.3%です。
他の国と比べると、日本で大変な速度で高齢化が進んでいることが分かります。
日本は今後も高齢社会のままであり、現在の社会保障制度のままであれば更なる社会保障給付費の増加が見込まれます。
社会保障費の負担について
社会保障給付費の増加に伴い、社会保障に関する国民負担率も増加しています。
グラフからは、1990年には10.6%であった社会保障負担が、2021年には18.9%となり大きく増加していることがわかります。
社会保障は必要な制度ですが、国民の税金で賄われているため、社会保障のための税金がかかり過ぎて生活を圧迫してしまうのは本末転倒です。
まとめ
社会保障制度は生活するため、非常に重要なセーフティーネットであり、自分たちの収める税金が関与しています。
現在は社会保障費で税金が圧迫されているのが事実です。
社会保障制度では子どもから子育て世代、高齢者までの全ての国民が安心できるように多種多様なサービスが実施されています。
特定の世代で終わりではなく、どの世代も安心して生活できるように持続することが重要です。
世代間の公平や負担なども考慮し、社会保障制度について国民自身が意識して考えていく必要があります。
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