薬剤師の人数は過剰で飽和状態と言われているけど本当なのかな?
薬剤師は人数が過剰で飽和状態というのはもう何年も前から言われていますね。
しかし、都市部と地方では大きく事情も違いますので、一概にそうとも言えないのが現状です。
薬剤師は2045年に2.4万から12.6万人も過剰になる可能性がある
厚生労働省が2021年に公表した薬剤師の需給調査の推計によると、2045年の薬剤師の供給数・需要数は下記となっています。
厚労省が公表した薬剤師の需給調査の推計では、2045年の供給数は最大で45万8000人、最小で43万2000人。需要数は最大で40万8000人、最小で33万2000人。
引用元:ドラビズon-line
最大の供給数と最小の需要数を考慮すると12万6000人が2045年に供給過剰になる可能性が示された。
供給数の最小値でも需要数の最大値を上回っており、最低でも2.4万人が過剰になる可能性が示唆されています。
都市部では薬剤師は飽和しているが地方では不足している事実
2022年の第12回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会議事録によると、業務上理想と考える薬剤師数に対する都道府県別の充足率は下記の通りとなっています。
病院、薬局が理想とする薬剤師数に対する実際に勤務する薬剤師数(充足率)を、所在する都道府県ごとにみると、病院については平均 80.0%(最大 98.3%、最小 54.0%)、また薬局については平均 86.6%(最大 112.4%、最小 58.3%)であり、薬局では一部の都道府県で充足(100.0%以上である)しているが、病院では全ての都道府県で充足しておらず、また、都道府県間で充足率に差が認められた。
引用元:第12回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会
これだけで飽和しているかを判断できるわけではありませんが、偏りがあることがわかります。
地方での薬剤師の業務の将来性や発展性
調剤などの対物業務はAIで代替可能であり、むしろヒューマンエラーが出ない分AIの方が向いているとすら言われています。
調剤業務を全て人の手だけでまかなっている病院や薬局は最近ではほとんど存在しておらず、地方も例外ではありません。
むしろ薬剤師不足である地方では急速にAIの導入が進む可能性は高いです。
しかし薬剤師の仕事は服薬指導やかかりつけ薬剤師制度などの対人業務へとシフトしており、高齢化が進んでいる地方においては薬剤師の将来性は十分にあると見込まれます。
薬剤師の教育の質向上に文部科学省が動いている
第10回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会の資料によると6年制薬学部が始まる前後に薬学部の新設が相次ぎ、入学定員数は4年制当時と比較して大幅に増加し、現在も薬学部が新設されている状況にあります。
一方で、2020年度の入学定員充足率が90%を下回った大学は私立大学のうち4割ほど存在しています。
2020年度の入学定員充足率が90%以下の大学は、私立大学の59学部中23学部であった(4割弱)。
引用元:第10回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会の資料
また、薬学部に入学したとしても、薬剤師の国家資格に合格できる学生は私立大学の場合6割に満たない状況で、学生の質の低下が問題となっています。
入学しても、入学後の進級率/卒業留年率は大学によって非常に大きな差があり、標準修業年限の6年間で卒業し、国家試験に合格できる学生は私立大学の場合6割に満たない状況であり、学生の質の維持に課題がある大学が存在する。学生の質に影響を与える関連事項として、入学時の実質競争倍率の低さ(1.0~1.1 倍程度の相当低い大学が存在する)、入学試験における受験科目の少なさ(私立大では理科は化学のみ等の1科目でよい大学が大半である)も考えられる。
引用元:薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会とりまとめ(案)
薬剤師国家試験では薬剤師資格を与えるための一定の質を確認しているが、上記のような学生の質の低下により、薬学教育において国家試験に合格できるレベルに到達させることを重視し、国家試験対策が中心となってしまう大学も存在するため、薬剤師の養成を考える際には、養成数という量の問題だけではなく、養成する学生の質の問題もあわせて考える必要がある。
少子高齢化の影響で人口が減少する中、経営の観点から学生の質を下げてでも入学者数を確保しようとする大学が存在しているのが現状で、これを文部科学省は公教育を行う機関である大学の信頼を損なうものであり改めるべきと指摘しています。
18 歳人口が減少する中、入学者の質を下げてでも経営の観点から定員分の学生数を確保しようとする現状があるという指摘もある。このような現状は公教育を行う機関である大学の信頼を損なうものであり、改めなければならない。
引用元:薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会とりまとめ(案)
各大学においては、国家試験を目指して無事卒業させることに汲々として理念と乖離した教育を行うのではなく、「どのような薬剤師、薬学卒業生を育成しようとしているのか」について一貫したポリシーを持ち、将来的に社会のニーズがどのように変遷していくのか見極めながら全体的戦略を考えていくことが必要であると考えられる。
対物業務は今後どんどん効率化されていく
2022年の第12回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会では「対人業務を充実させるために対人業務以外の効率化が不可欠」というのが基本的な考え方で、下記のような対物業務の効率化が検討されています。
対物業務の効率化
- 調剤業務の一部外部委託
- 処方箋の40枚規制
- 薬剤師以外の職員の活用
- 調剤機器の活用
- 院外処方箋に関する問い合わせの簡素化
中小規模の医療機関では特に調剤業務にかかる時間が長い傾向にあり、今後は対物業務の効率化が積極的に進められることが予想されます。
薬剤師の仕事は今後対人業務へシフトしていく
厚生労働省は2015年に「患者のための薬局ビジョン」 を発表し、その中で2025年までに目指す姿として下記のように示しています。
2025年までのなるべく早い時期に、従来の対物業務から、処方内容のチェック、多剤・重複投薬や飲み合わせの確認、医師への疑義照会、丁寧な服薬指導、在宅対応も通じた継続的な服薬状況・副作用等のモニタリング、それを踏まえた医師へのフィードバックや処方提案、残薬解消など、患者が医薬分業のメリットを実感できる対人業務へとシフトが進むことが期待される。
引用元:厚生労働省 患者のための薬局ビジョン~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~
ただ「薬剤師の不足している地域に転職すればいい」というものではなく、今後はAIで代替できない対人業務に関するスキルを磨いていくことが薬剤師を目指す・続ける上で重要となります。
まとめ
- 厚生労働省の推計によると2045年には2.4万から12.6万人の薬剤師が供給過剰になる可能性が示唆されている。
- 都市部では既に薬剤師が飽和状態になりつつあるものの、地方では薬剤師が不足している。
- AIで代替できない対人業務に関するスキルを磨いていくことで薬剤師が飽和しても生き残れる可能性が高まる。
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