薬剤師はどれくらい偏在している?
薬剤師の数は年々増加傾向にあり、将来的に供給が需要を上回ると考えられています。
一方で薬剤師の勤務先には地域の偏在があり、薬剤師が不足している地域が多いのが現状です。
この記事では薬剤師数の推移や薬剤師の偏在に対する対策を解説し、薬剤師が地方で働くメリット・デメリットについても解説していきます。
薬剤師数の推移
厚生労働省の調査によると、令和2年12月31日時点の全国の届出「薬剤師数」は 321,982 人です。
平成30年に行われた前回の調査と比べると10,693人(3.4%)増加しており、その要因の一つに、平成18年に薬学教育が6年制に変更される際に新設の薬学部・薬科大が急増したことがあげられます。
令和4年7月13日に開催された「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」のとりまとめ(今後の検討課題)では、今後の薬剤師の需要と共有について以下のように予測されています。
「薬剤師の総数としては、概ね今後10年間は、需要と供給は同程度で推移するが、将来的には、需要が業務充実により増加すると仮定したとしても、供給が需要を上回り、薬剤師が過剰になる。薬剤師業務の充実と資質向上に向けた取組が行われない場合は需要が減少し、供給との差が一層広がることになると考えられる。」
(引用:厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会(とりまとめ(今後の検討課題))」)
薬剤師の偏在は大きな問題になっている
将来的に薬剤師の数は過剰になる一方で、薬剤師の勤務先には業態の偏在や地域偏在があります。
下のグラフは、人口10万人に対して何人の薬剤師がいるのかを、都道府県別で表しています。
(引用:厚生労働省「令和2(2020)年薬剤師統計の概況」)
棒グラフの上の方を見てみると、全国平均の「198.6人」というラインがあります。
東京都や兵庫県、徳島県のように薬剤師が十分足りている地域もありますが、全国平均のラインを下回っている都道府県の方が多いことがわかります。
厚生労働省が発表している平成30年の同調査では全国平均が190.1人でしたので、前回に比べれば人口10万人あたりの薬剤師の人数は8.5人増加しています。
しかし実際にはまだ多くの都道府県で薬剤師が不足しているのが現状です。
さらに、薬剤師の業態の偏在も問題になっています。
以下のグラフは薬局と医療施設に従事する薬剤師数の推移を表したものです。
(引用:厚生労働省「令和2(2020)年薬剤師統計の概況」)
薬局に勤務する薬剤師の数が右肩上がりに増え続けている一方で、病院やクリニックなど医療施設の薬剤師数はあまり増えていないことがわかります。
厚生労働省の「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」のとりまとめ(今後の検討課題)では、薬剤師の地域偏在により、特に病院の薬剤師が不足していることも指摘されています。
薬剤師の偏在に対する対策
薬剤師の偏在への対策としては、医療機関や薬局による取り組みと都道府県など行政による支援の両方が考えられます。
今回は国や都道府県など行政による対策をご紹介します。
国による対策
薬剤師の確保と偏在を解消するための国の対策として、厚生労働省は令和3年12月に「地域医療介護総合確保基金を活用した薬剤師の修学資金貸与に対する事業の取り扱い」について通知しています。
内容は、「都道府県から修学資金を借りた薬剤師は、該当する都道府県内の医療機関で決められた期間働くという条件を満たせば返済義務が免除される」というものです。
薬学生に向けて地元薬剤師の活動を紹介することで、県内薬局への就業につなげる取り組みや県内出身者のU・Iターン就職の働きかけを強化する目的です。
地方による個別の対策
都道府県も、薬剤師の地域偏在を解消し、薬剤師を安定的に確保するための対策を行なっています。
地方による個別の対策を、長野県・鳥取県・宮城県を例にご紹介します。
長野県
令和2年度の長野県内の薬剤師数は人口10万人あたり189.2人と、全国平均の198.6人を下回っています。
県内に薬学部がない長野県では、県外で就職する人が多いです。
薬剤師の資格を持っている人の約6割が女性で結婚出産により働いていない人もいるため、病院や薬局では以前から薬剤師不足が課題となっています。
在宅医療や「かかりつけ薬剤師・薬局」の推進等により、今後さらなる薬剤師の需要が高まるとし、薬剤師の確保が課題になっています。
長野県の対策は主に以下のようなものが行われています。
- 中高生を対象とした薬剤師セミナーの開催
長野県内の中高生向けに、病院・薬局・行政・製薬会社における薬剤師業務の紹介を行います。薬剤師の仕事内容やその魅力に対する知識を深められます。 - 薬学生、U・Iターン希望者、県外在住未就業薬剤師をターゲットにした就職・復職説明会
出産・子育てからの現場復帰や、U・Iターン、薬学生の悩みなど長野県で働く薬剤師を応援する目的です。
- 薬剤師の育成に向けた事業(スキルアップを目的としたもの)
- 訪問薬剤管理指導推進のための知識・技能習得研修
- かかりつけ薬局づくりに向けた各薬局の機能強化
- 復職に向けた座学研修・実習(病院・薬局)の開催
- 未就業・復職間もない薬剤師向けの受講しやすい研修機会の確保(e-ラーニングシステム)
鳥取県
鳥取県内の薬剤師はわずかに増加傾向ですが、人口10万人あたりの薬剤師数は189人で平均(198.6人)を下回っています。
在宅医療の増加に伴い薬剤師の需要が高まっているため、薬剤師の早急な確保が必要とされています。
鳥取県の隣県である島根県にも薬学部がないため、山陰地方全体で薬剤師が不足しているのも課題の一つです。
鳥取県が行なっている薬剤師確保へ向けた取り組みをご紹介します。
- 薬学生を対象とした事業
- 薬学生スプリング合同企業説明会
将来鳥取県で働きたい薬学生を対象に、県内の病院・薬局の採用情報を提供するオンラインセミナーを開催予定です。 - 薬学生サマーセミナー in とっとり(インターンシップ)
鳥取県内の病院・薬局・行政機関において、薬剤師の業務を体験できるセミナー(インターンシップ)です。
全国の薬学生が対象で、出身地や学年を問わず参加できます。
- 薬学生スプリング合同企業説明会
- 鳥取県未来人材育成奨学金支援制度
鳥取県内で新たに働きはじめる薬剤師を対象に、奨学金の返還額の一部を助成する制度です。出身地を問わず利用できます。 - 高校生のための薬学部進学セミナー
高校生向けに、県内の様々な仕事についている若手薬剤師の体験談や薬科大学のカリキュラム、就職状況を紹介するセミナーです。
薬学部や薬剤師の知識を深められます。 - 大阪薬科大学オープンキャンパスへの無料送迎バス運行
就職支援協定を結んでいる大阪薬科大学のオープンキャンパスで、当日の送迎バスを無料で運行します。
宮城県
宮城県内の薬剤師数は人口10万人あたり194.3人と、全国平均(198.6人)を下回っています。
県内の薬剤師の多くが仙台市に集中しているため、仙台市以外の地域では常に薬剤師が不足しているのが現状です。
薬剤師確保においては、県ごとの薬剤師の偏在にとどまらず、県内の偏在も課題です。
さらに東日本大震災の影響で薬剤師が元々不足している地域が特に重大な被害を受け、薬剤師の確保が難しい状態が続いています。
宮城県が行なっている薬剤師確保へ向けた取り組みをご紹介します。
- 薬学生を対象とした事業
宮城県内外の薬学生に対して、県内の地域医療の現状や地域医療における薬剤師の役割について理解を深めることで、薬剤師が不足している地域への就業を考えるきっかけになることを目的としています。- 被災地医療修学バスツアー
- 地域医療における薬剤師業務体験実習
- 薬学系大学内での県内就業促進説明会
- 病院内での薬剤師業務体験研修
- U・Iターン呼びかけのためのパンフレット作成
- 未来の薬剤師セミナー・薬剤師体験会
宮城県内の小中高生向けに、薬学部の教育の実際や薬剤師業務の紹介を行います。薬剤師の仕事内容やその魅力に対する知識を深められます。 - 復職支援セミナー・薬局における実務研修・病院臨床薬剤業務研修
出産・子育てにより離職した薬剤師や医療機関での実務経験がない有資格者が対象です。
薬剤師への復職や医療機関で働くための支援を行うことで、薬剤師スキルを向上させる目的です。 - 高度管理医療等実務研修・地域連携医療等実務研修
主に薬剤師が不足している地域で働く薬剤師が対象です。
地方における高度管理医療や地域連携等に関する研修の開催により、地方で働きながらも都市部と同じように学ぶ機会を提供する目的です。
薬剤師が地方で働くメリット・デメリット
薬剤師が地方で働くメリットとデメリットをご紹介します。
まずはメリットをみていきましょう。
- 年収が高い
薬剤師が地方で働く最も大きなメリットは、都会に比べて年収が高いことです。
地方では薬剤師が不足しているため、高収入・高待遇の求人が多いです。 - 生活費が抑えられる
都会に比べると地方は物価が安いため生活費が抑えられます。
特に毎月の固定費である住居費が安くなると貯金がしやすくなります。 - 地方ならではのライフスタイルを楽しめる
生活面でのメリットとしては、通勤ラッシュからの解放と自然に囲まれた暮らしです。
働く場所を選べばダイビングや山登りなど趣味などを楽しむこともできるでしょう。 - 地域に密着した働き方ができる
地方では都会に比べて患者との距離が近く、コミュニケーションがとりやすいです。
高齢化がすすんでいるため在宅医療も積極的に行われているので、地域に密着した働き方ができ、薬剤師としてのやりがいを感じられるでしょう。
一方で、薬剤師が地方で働くのはデメリットもあります。
- 生活が不便
地方で働くデメリットとしては、都会では当たり前の便利さがないことがあげられます。
スーパーや病院が少ない、映画館などの娯楽施設もほぼないことが多いです。 - コミュニティが狭い
コミュニティが狭いと仕事とプライベートの区別がつきにくかったり、人間関係がうまくいかなかった場合、働きにくくなるデメリットがあります。
都会の他人との距離感に慣れていると、地方ならではの親密な人間関係に戸惑うこともあるでしょう。 - 車の運転が必要
地方ではほとんどの場合が車で通勤ですし、日々の生活でも、車の運転は必須です。
まとめ
この記事では、薬剤師の偏在に対して国や地方で行われている対策の具体例をご紹介しました。
薬剤師の数は増加している一方で、地域偏在による地方の薬剤師不足は深刻な問題です。
最近ではU・Iターン転職を検討する方も増えていますが、地方薬剤師は年収がアップしたり地域に密着した働き方など薬剤師のやりがいや魅力が多い反面、慣れない環境での生活や地方ならではの不便さやなど問題点もあります。
そのため、地方への転職を考える際は、事前の入念なリサーチが必須です。
自分ひとりで調べるには限界があるので、転職サイトの利用がおすすめです。
転職サイトを上手く活用して情報を収集し、地方への転職を成功させましょう。
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