薬剤師の有効求人倍率は急速に減少している現状
薬剤師の数は増加傾向ではありますが、地域や業態によっては人手不足が叫ばれているのも事実です。薬剤師過剰とも薬剤師不足ともいわれる現状ですが、一つの指標として「有効求人倍率」をチェックしてみましょう。
2018年3月の医師、薬剤師等の有効求人倍率は5.35でしたが、2022年3月の医師、薬剤師等の有効求人倍率は2.03となっています。全職種の有効求人倍率よりは高い傾向にはありますが、このように、有効求人倍率は急速に減少している現状にあります。
(参考:厚生労働省「一般職業紹介状況」https://www.mhlw.go.jp/content/11602000/000932928.pdf)
薬剤師一人当たりの処方箋数も減少
令和2年12月31日現在における全国の届出「薬剤師数」は32万1,982人です。前回(平成30年)調査では31万1,289人だったため、比較すると1万693人(3.4%)増加していることがわかります。
それに対し、日本薬剤師会「保険調剤の動向」によると、令和2年度の処方箋枚数は7億3,115万5,641枚とのことです。平成30年度は8億1,228万8,671枚であり、比較すると令和2年度では8,113万3,030枚の減少だったことがわかります。
薬剤師数と処方箋枚数をもとに薬剤師一人当たりの処方箋枚数を計算すると、令和2年度では一人当たり約2,270枚となります。平成30年度では約2,609枚となっており、薬剤師一人当たりの処方箋枚数は減少していることがわかります。
【参考】厚生労働省『令和2年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』
https://www.job-terminal.com/features/%E8%96%AC%E5%89%A4%E5%B8%AB%E3%81%AE%E5%B0%86%E6%9D%A5%E6%80%A7/
厚生労働省『平成30年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/18/dl/kekka-3.pdf
日本薬剤師会『保険調剤の動向(令和2年度)』
https://www.nichiyaku.or.jp/assets/uploads/activities/bungyo/d/R2doko.pdf
日本薬剤師会『保険調剤の動向(平成30年度)』
https://www.nichiyaku.or.jp/assets/uploads/activities/bungyo/d/30doko.pdf
地域偏在が問題となっており地方では薬剤師が不足している
薬剤師の数は年々増加していますが、地方偏在が問題となっており、薬剤師が不足している地域もあります。
厚生労働省より、都道府県別の人口10万人に対する薬剤師数のデータが公表されていますが、令和2年度のデータをみると、徳島県が238.6人と最も多く、東京都、兵庫県と続いています。
全国平均は198.6人となっており、この全国平均を超えている都道府県は11しかありません。
残りの36都道府県は平均以下の薬剤師数しかおらず、その中でも最も少ないのは沖縄県の148.3人と、平均を大きく下回る結果となっています。
このように、地方偏在によって薬剤師が不足している地域もあります。
長期的には薬剤師の供給は需要を上回る見込み
年々、薬剤師数が増加していることに加え、調剤業務のAIによる機械化・自動化が進んでいくことによって、長期的にみると薬剤師の供給は需要を上回る見込みと言われています。
柔軟な対応が求められる対人業務についてはすぐに取って代わられる可能性は低いですが、ピッキングや一包化、受付業務、在庫管理などいわゆる対物業務はすでに機械化・自動化が進んでいます。
この流れは今後加速していくと考えられるので、薬剤師の需要は今までより少なくなってしまう可能性があります。
薬剤師不足の原因
薬剤師の数としては増加しているのにも関わらず、薬剤師不足と言われている背景には様々な要因が考えられます。
色んな視点から不足と言われている原因を探っていきましょう。
医薬分業の推進
医薬分業の急激な広まりによって薬局やドラッグストアの数が増えました。
それに比例して薬剤師の必要数も増えていくため、薬剤師不足と感じる原因となっているでしょう。
医薬分業がはじまった1974年には約26,000軒だった薬局の数は2019年末には60,171軒と、6万軒を超えています。
この急速な薬局の増え方に対して、薬剤師数としては毎年一定数しか増えません。
薬剤師の増減を施設別に見た場合にも、薬局の従事者は令和2年で188,982人と薬剤師の総数の58.7%を占めています。
年次推移でみても、薬局に従事する薬剤師は大幅に増加し続けていますが、急速な需要拡大を感じている働き手からすると人材不足と感じる可能性があります。
薬剤師免許が不必要な職場への転職
薬剤師免許が不必要な職場としては、製薬企業などが挙げられます。
製薬企業の強みとして、最終的な年収が高いということがいえます。
調剤薬局やドラッグストア、病院などの医療機関で働く薬剤師の年収は数年で頭打ちになるケースが多いです。
管理職に就くなどすることで年収アップが期待できるケースもありますが、そのポストには限りもあり、自分が思ったようにキャリアアップできないケースもあるでしょう。
それに対し、製薬企業の年収は年次ごとに安定した昇給があり、将来的な年収は高く安定するケースが多いです。特にMRや研究開発職などでは年収1,000万円超えという人もいます。
そのため、転職先として一定の人気があり、薬剤師として現場で働く人員が減少する一つの要因となっています。
薬剤師は女性の方が比較的多い
令和2年のデータでは男性薬剤師が124,242人(総数の38.6%)、女性薬剤師が197,740人(総数の61.4%)となっており、女性の割合の方が比較的多いことがわかります。
女性の場合、結婚を機に専業主婦となったり、出産や子育てなどのライフイベントによって休職・退職するケースもあり、数字で見るよりも薬剤師が不足しているように感じることがあるかもしれません。
家庭と仕事を両立して働く方も多くなってきてはいますが、働く時間の制限があることとかかりつけ薬局としての24時間対応など、社会から求められる薬局像の変化などからも不足感をもつ一因となっています。
薬剤師が地方で働くメリット
東京都、兵庫県、大阪府、神奈川県など都市部に比べるとまだまだ地方で働く薬剤師が少ない現状が続いています。
そんな状況を改善するためにも、薬剤師が地方で働くとどんなメリットがあるのかを考えていきましょう。
待遇が良い
地方では基本的に人手が足りていないケースが多いため、都市部と比較して好条件が揃っている薬局が多くなります。
厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師の平均年収が最も高い都道府県は山口県でなんと約667万円となっています。都市部の都道府県では11位に愛知県(606万円)20位に東京都(594万円)37位に大阪府(537万円)と地方の方が年収が高い傾向にあります。
人口の偏在から見ても明らかに地方の方が人材が不足していることから、薬剤師の市場でも同じことが言えます。
どの業態でも基本的に高待遇を提示している傾向ではあるので、年収アップを目指す方にとっては一つの狙い所になるでしょう。
患者さんとの関係を築ける
都市部と比較すると地方の方が高齢者人口が多く、交通網などのインフラも未発達な地域が多い傾向にあります。そのため、在宅医療や訪問看護・介護などの需要が高いです。
調剤薬局やドラッグストアでも顔見知りの方が多くなり相談を応需しやすくなったりと、その地域の方々とより密接にコミュニケーションを取れたりと良い関係づくりをおこなっていくことができるでしょう。
地方ならではの暮らしができる
地方ならではの生活や趣味を充実させることができるというのもメリットの1つでしょう。
キャンプや釣りなどアウトドア系の趣味を持っている人はわざわざ都市部から移動しなくても趣味を満喫できることで日々を充実させることができるかもしれません。
のびのびとできる環境でプライベートの時間をしっかりととって子育てと仕事を両立したいという方にも良い環境となり得ます。
薬剤師が地方で働くデメリット
地方では人手不足が叫ばれてるという事はもちろん、メリットだけでなく、デメリットも存在します。
地方で働くことを決断するうえでデメリットもしっかりと押さえておく必要があります。
生活が不便なことも
地方で働くデメリットとして生活の利便性が下がることが挙げられます。
交通機関が整っていないことが多いため、徒歩圏内にスーパーがないなど、生活する上で車が必要不可欠となってしまうケースもあるでしょう。
また、地方に移動することによって近くに友人が住んでおらず、生活がしにくいなどといった問題も出てくるかもしれません。
地方で働く場合には職場の条件だけでなく、生活面についてもしっかりと下調べした上で検討する必要があります。
キャリアアップがしにくい場合も
地方では地域密着型の個人薬局や小規模チェーンなどが多い傾向にあります。
そういった環境だと、大手薬局チェーンと比較すると教育環境が整っていないケースが散見されます。
地域密着型の店舗の場合、管理職のポストも必然的に数が少なくなってしまうため、キャリアアップしにくい場合もあり得ます。
薬剤師の薬剤師の需要に影響する要因
薬剤師の需要は今後どのように変化していくのかを予想するためにおさえておきたい要因を紹介します。
機械化・IT化
技術の進歩によって、AIなどによる業務の機械化・IT化が進んでいくことも薬剤師の需要に影響を与える要因となります。
錠剤の数量を取り揃えるピッキングマシンや一包化の作成をおこなえる分包機、散剤を混合するロボット、水剤用の分注機など既にさまざまな機械化が行われており、資金面さえクリアした場合にはほぼ全ての調剤業務を自動化することも可能な時代となりました。
薬剤服用歴の記入なども音声入力やクラウドサービスなどが普及し始めており、AIを活用することで薬剤師の業務負担軽減に繋がっています。機械化・IT化によって便利な世の中になっていますが、薬剤師の需要は少なくなっていくことが予想されます。
テクニシャン制度
テクニシャン制度とは、薬の納品やピッキング、一包化の数量確認など、調剤業務の一部を非薬剤師のスタッフがおこなうことができる制度です。
日本ではアメリカと同様なテクニシャン制度はまだ導入されていませんが、厚生労働省から「調剤業務のあり方について」という通知にて、非薬剤師ができる業務の範囲について見解を示しました。
これにより、医薬品のピッキングや一包化の薬剤の数量確認、納品された医薬品をしまう、調剤済み薬剤を患者のお薬カレンダー・配薬カートなどに入れる行為などが非薬剤師スタッフがおこなってもよいと明示されています。
このように薬剤師の対物業務への負担を減らしてくれる存在ができ、薬学的専門知識を必要とする対人業務へさける時間を増やすように国が働きかけています。
このような流れで過剰となっている薬剤師については淘汰されていく傾向になるでしょう。
コロナウイルスなどのパンデミック
昨今のコロナウイルスに代表される感染症によるパンデミックも薬剤師の需要に大きく影響をもたらす事項の1つです。
新型コロナウイルスの感染拡大によって医療機関の受診を控えるケースが増えたことによって処方日数の増加により処方箋単価は上がりましたが、処方箋枚数が減り、調剤薬局の減収につながりました。
これによって薬剤師の人員配置の見直しなど、就労環境にも影響が及んでいます。
一方で、抗原検査キット・OTCの対応や無料抗原検査事業、ワクチンの担い手などで薬剤師の職域拡大の可能性が上がった側面もあります。
そのため、薬剤師の需要の減少については一過性のものとは言い切れないでしょう。
薬剤師が飽和する時代に備え自己研鑽しておくべき
ここまで紹介してきた通り、いずれ薬剤師が飽和状態になってしまう時代がきてしまうことが予想されます。
現状ではそれほど労せず好条件で働けているとしても、この先も同じように働いていけるかどうかはいくら資格職といえども、保証はされません。
能力やスキル、経験がない人材が好条件で働き続けたり、好待遇で転職したりすることはこれまで以上に難しくなっていくでしょう。
自己学習はもちろんですが「研修認定薬剤師」や「がん専門薬剤師」など、各種認定・資格の取得に励むのも良いでしょう。専門性が高い薬剤師はそれだけでも魅力的な人材となりえます。もしも転職することになっても、有利に交渉をおこなうことが出来る要素の1つになるでしょう。
多職種と連携が取れるようなスキルを磨くことも重要です。在宅医療などをはじめとして、多職種連携の重要性は高まっています。地域連携のセミナー・地域ケア会議などを受講して多職種連携の出来る薬剤師になっておく事も、将来性を高めるうえで重要なファクターとなります。
地域医療に貢献する手もある
需要が上がっていくと予想されるのが地域医療です。超高齢化社会に向かっていく日本の中で今後、地域に根差した活動は必要不可欠となっていきます。
地域医療に貢献できる薬剤師として、健康サポート薬局やかかりつけ薬局・薬剤師、在宅医療などが挙げられます。現在は在宅領域などを中心に、医師や看護師が担っている業務を薬剤師が適正におこなうように推進する動きも高まっているため、薬剤師の仕事の範囲が広がっていくことになるでしょう。これらの業務は対人業務であり、専門性の高い知識に加えて、高いコミュニケーション能力も求められるため、ロボットやAIに代替される可能性も低く、将来性も期待できます。
多様化する需要に適応できるように知識やスキルをアップデートしていくことが、今後ますます重要になっていくでしょう。
まとめ
薬剤師は心強い資格ではありますが、今後は飽和状態になってしまう可能性があります。
しかし、自己研鑽をおこなって自身の能力・スキルを高めたり、地域医療など社会からの需要に応えたりできる薬剤師には明るい将来が待っているでしょう。
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