病院が赤字になる理由
日本に病院は多く存在していますが、毎年医療費が伸びているにもかかわらず、経営が赤字になっている病院も少なくありません。
病院は一般企業とは異なり、儲けることのみを目的とする施設ではありません。
ただ、経営状態が良好なことは、経営者、従業員、地域の患者さんに安心・安全な医療を提供するため重要なことです。
今回は病院が赤字になる理由を紹介したいと思います。
人件費の増加
医師や看護師などの医療従事者はここ数年で深刻な人材不足に陥っています。
その理由は、激務であるにもかかわらず仕事に見合う報酬がもらえないという点にあるようです。
生命を救うための緊張した現場で仕事をしている医療従事者は、報酬ももちろん高いことが望ましく、働くときは働き、休むときには肉体的にも精神的にもしっかりと休みを取れる環境でなければなりません。
しかし現状では、報酬もそこまで高いというわけではなく、休みもしっかりと取れていない職種や職場があります。
仕事内容に対する報酬は職種や職場によって異なります。
医師であっても、ほとんど仕事をせずに高い給料をもらう医師もいれば、夜通し手術をしてその後に休みがないまま診察をしなくてはならない状況だという医師もいます。
このような厳しい勤務状況であれば、肉体的にも精神的にも長く持たず就職してもすぐに辞めてしまう人がいてもおかしくありません。
どんどん人が辞めると病院は人材を確保しに動き出しますが、新たな人材を育成するには時間もお金も必要になります。
売上高に占める人件費の比率が高いほど赤字に陥りやすくなります。
その理由は、下記の表のとおりで経費の比率がおおよそ決まっているからと考えられます。
医薬品関係費 | 20%前後 |
給食等各種委託費 | 6%前後 |
設備関係費、その他諸経費 | 17%前後 |
これらを合算すると43%前後となり、残りの経費は約57%です。
57%程度が人件費の上限と言われています。
また、精神科病院や療養型病院では、医薬品に占める医療よりリハビリ医療が大切になるため、医薬品の割合が減りその分人件費の比率が多くなります。
売上高に占める人件費が60%を超えると経営が危ういとされ、70%で限界とされているようです。
コロナの影響
近年の病院赤字の原因は新型コロナウイルス感染症による影響が大きいと言われています。
新型コロナウイルス感染症は病院だけではなく国内外のあらゆる業界に影響を及ぼしました。
新型コロナウイルス感染症で収入が増えたのではないかと言われている病院ですが、国内の病院のうち2/3が赤字になってしまったようです。
特に、新規感染者が多い東京都では新型コロナウイルス感染症患者の入院を受け入れた病院の90%が赤字に転落してしまい、新型コロナウイルス感染症が原因で閉院しなければならなくなったケースも存在します。
新型コロナウイルス感染症は現在、感染症法で第2類感染症に指定されており、2023年5月に感染症法第5類に指定変更される予定ですが、情報が錯綜していた時期は特に新型コロナウイルスの感染力の強さや重症化を考えると、新型コロナウイルス感染症患者は受け入れないという病院も多くありました。
いずれにしても新型コロナウイルスがもたらした影響は非常に大きく、病院経営に大きな影響を与える出来事です。
(数値参考 ソラジョブ医療事務 https://solasto-career.com/media/125808/)
病床稼働率の減少
黒字病院と赤字病院に見られる違いに病床稼働率が挙げられます。
利益を確保するには100%に近い病床稼働率を保つことが重要です。
入院施設のある病院では入院診療が収益に影響します。
そのため、病床稼働率は利益に大きく影響し、稼働率が高いほど黒字になりやすいと言えます。
病院経営の現状
コロナウイルス感染症以前から病院の利益率は緩やかな減少の傾向でした。
独立行政法人福祉医療機構が公表しているデータでは、一般病院、療養型病院、精神科病院のいずれも医業利益率が緩やかに低下しています。
持ち直した年もありますが、一般病院の平均では2020年に利益率が初めてマイナスになりました。
(グラフ出典 医業承継サポート https://shoukei.mplat.jp/news/column-0038/)
病院経営で黒字化するポイント
病院経営が赤字になるいくつかの要因を紹介しました。
病院経営を黒字化するためには具体的にどのようなポイントがあるのか確認したいと思います。
ITなどを活用した業務の効率化
ある病院では患者数が減り、スタッフも入れ替わりが激しく経営が悪化していました。
そこでマネジメント経験者に相談し、ITシステムの導入やスタッフのマニュアル作成で業務改革を行い、業務報告書を管理者がネットで閲覧できコメントできるシステムや、電子カルテを導入しました。
このようなITを活用した業務の効率化で経営が改善した事例もあります。
経営戦略の見直し
今や病院はただ建てたら利益が出る時代ではなくなっています。
よって経営戦略が必要になるわけですが、経営戦略自体が間違っていることもあり、戦略を立てない場合と同様に本来黒字化できる状態でも赤字になってしまうことがあります。
組織マネジメントの見直し
組織マネジメントとは、経営資源である「ヒト、モノ、カネ、情報」のパフォーマンスを最大化するためのマネジメント手法のことを言います。
マネジメントの対象となる「組織」とは単なる集団ではなく、集団の目的を達成するために、2人以上の人が共通した理念で戦略のもとに活動する仕組みです。
病院では医師をはじめ看護師、薬剤師、事務職、調理師、栄養士、リハビリテーション職、臨床検査技師、放射線技師、臨床工学技士、介護・福祉職、心理士などあらゆる専門分野の人材が集団となり患者の回復を目標とする組織を形成しています。
病院の理念や戦略や目標がはっきりしないと基準になるもの・目指すものが分からずパフォーマンスの最大化からどんどん離れて行ってしまいます。
患者数の確保
業務の効率化、経営戦略の見直し、組織マネジメントの見直しが完璧であってもそもそも患者が来なければ収益は少なく、黒字化することはできません。
そのために患者の確保は重要です。
具体的な方策としては、地域や患者のニーズに応え、病院機能を見直したり、必要な医療体制を整えることが重要です。
努力をし、様々な改革を行いシステムを整え、時間をかけて積み上げた信頼は、怠慢や傲慢な態度により一瞬で崩れます。
現代の病院・クリニック経営で必要なこと
現代の病院やクリニックの経営は規模や立地、専門科にかかわらず厳しい状態にあると言えます。
赤字を黒字に転換させたり、黒字を維持するにはどのようなことが求められるのでしょうか。
経営状況の把握
安定した経営を行うためには、まず現在の経営状況を正確に把握する必要があります。
病院やクリニックの多くは経営者は医療従事者であり、経営面では素人である場合が多く、経営能力に優れているかと言われると即座に首を縦に振るには難しいことが多いです。
コロナなどの感染症への対応力強化
新型コロナウイルス感染症の流行で今までなかった新たな環境、特に新型感染症へのもろさを感じている病院も多いのではないでしょうか。
新型コロナウイルス感染症の流行で赤字になった病院が多いことを考えると、同様の例が今後起こると仮定して、感染症対策を強化することにより経営悪化を防ぐことができる可能性があります。
従業員が働きやすく離職しない環境を作る
病院が赤字になる原因は、従業員が離職してしまうことも原因です。
ならば、従業員が離職しない環境をつくることで従業員が定着すれば、従業員補充のための宣伝費、新人教育費などの人件費がかさむことなく必然的に赤字を防ぐことができます。
地域との連携
クリニックの赤字削減には、コスト削減と収益増加の両方が必要です。
最近の診療報酬では、地域包括ケアシステムに関連する病診連携や介護施設との連携、入退院支援や医療連携の強化等地域連携を求めています。
情報発信
新型コロナウイルス感染症以降、通院する前に診療時間の変更・医院の感染予防策がどのように行われているか確認してから通院する人が増えました。
それによって、情報収集後に医院に行く人が増えたため、HPでの情報発信をする病院が増えています。
まとめ
- 病院・クリニックはもはや開業しただけで黒字化する施設ではない
- 経営状態が良好なことは、経営者、従業員、地域の患者さんに安心・安全な医療を提供するため重要である
- クリニックの赤字削減には、コスト削減と収益増加の両方が必要
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